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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和63年(ラ)37号 決定

鹿児島県名瀬市金久町二一番一二号

抗告人

神田タツ

右訴訟代理人弁護士

川村重春

同市幸町一九番二一号

相手方

大島税務署長

木庭真利

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  抗告人は、「原判決を取消す。相手方は、訴外宮之原有弘作成に係る昭和五八年分確定申告書及び附属書類並びに同年分修正申告書及び附属書類を原裁判所に提出せよ。」との裁判を求め、その理由は別紙「文書提出命令に対する即時抗告」中の「抗告の理由」記載の通りであるが、要は、抗告人において相手方に対し提出を求める文書は、民事訴訟法三一二条一項に定める「訴訟ニ於テ引用シタル」文書に該当するというのである。

二  然しながら、抗告人の右主張は理由がなく、相手方は抗告人に対し右文書の提出義務を負わないことは、原決定説示のとおりであるから、これを引用する。

よつて、主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 野田殷稔 裁判官 澤田英雄 裁判官 郷俊介)

文書提出命令申立却下決定に対する即時抗告

鹿児島県名瀬市金久町二一番一二号

抗告人(原告) 神田タツ

右訴訟代理人弁護士 川村重春

鹿児島県名瀬市幸町一九-二一

相手方(被告) 大島税務署長

木庭真利

右原告と被告間の鹿児島地方裁判所昭和六二年(行ウ)第一号所得税更正処分取消請求事件につき、昭和六三年八月一二日同裁判所が、抗告人の文書提出命令申立を却下する旨の決定をし、同月一九日送達を受けたが、抗告人は、不服であるから、即時抗告をする。

原決定の表示

事件番号 昭和六三年(モ)第二七九号

主文 本件申立を却下する

理由 (省略)

抗告の趣旨

一 原決定を取消す

二 相手方は、訴外宮之原有弘作成にかかる昭和五八年分確定申告書及び附属書類、並びに同年分修正申告書及び附属書類を原裁判所に提出せよとの決定を求める。

抗告の理由

一 前記決定に対する抗告人の不服理由は次のとおりである。

二 原裁判所は、「宮之原は本件訴訟における当事者ではないから、同人の証言をもつて、本件文書を当事者が引用した文書であるということはできない」とする。

しかしながら宮之原の証人申請をし、且つ主尋問の際、宮之原に「修正申告をして納税した」旨証言させたのは、相手方(被告)である。証言をしたのは宮之原であるが、宮之原にかかる証言をさせたのは、相手方(被告)である。相手方(被告)は、かかる証言を宮之原にさせ、つまり本件文書の存在と内容を宮之原に証言させ、もつて同人の証言の信用性を高め、自己の主張が真実であるとの心証を裁判所に形成させようとしたのである。相手方(被告)は、宮之原の証言に仮託して、まさしく本件文書の存在と内容を引用しているのである。

民事訴訟法三一二条一号が文書提出義務を当事者の一方に課した趣旨は、当該文書を所持する当事者が、裁判所に対し、その文書自体を提出することなく、その存在及び内容を積極的に申し立てることにより、自己の主張が真実であるとの心証を一方的に形成させる危険を避け、当事者間の公平をはかつて、その文書を開示し相手型の批判にさらすべきであるという点にある(判例、通説)。とすれば本件においても本件文書の提出を認めなければ、右立法趣旨を貫徹できない。

浦和地裁昭和五四年一一月六日決定訟務月報二六巻二号三一五頁は、右立法趣旨を提示し次のように説く。即ち、右の趣旨に徴してみれば、「訴訟ニ於テ引用シタル」文書とは、その存在及び内容が、訴訟手続き中において当事者により何らかの方法によつて明らかにされた文書をいうと解すべきであるとする。

また右浦和地裁昭和五四年一一月六日決定は、課税処分取消訴訟において、被告税務署長が書証として提出した同業者調査表中にアルファベットで表示された納税者の所得税青色申告決算書は、被告が証拠として引用した文書ではないが、その存在及び記載内容中の重要部分が右書証によつて明らかにされているから民訴法三一二条一号所定の文書に当たるとしている。右のように原被告以外の第三者が作成した同業者調査票を書証として取調請求する場合と、本件のように原被告以外の第三者を証人として取調請求する場合とで異なるものであろうか。いずれにしても第三者に供述させる点では、差異はない。また書証の取調請求するか、証人の取調請求をするかは、方法、手段の差でしかなく、いずれも裁判所の心証形成を有利にするという点で差異はない。

よつて相手方(被告)は、宮之原の証人申請をし、その主尋問において、本件文書の存在と内容を明らかにしているから、本件文書は同法三一二条一号所定の文書にあたるというべきである。

三 本件訴訟及びそれに至るまでの間、相手方(被告)は、多数の人員を投入し且つ絶大なる権力を行使して、抗告人の一切の財産状況を調査し、且つ証拠として提出している。これに対し抗告人が為しうることは、自己の支配内にある自己の財産状況に関するものを証拠として提出するのみである。せめて宮之原証人の証言の信用性を検討する機会を得るために本件文書の提出をお願いしたいというのが、抗告人のささやかな、そして切なお願いである。

四 なおその余については抗告人作成の昭和六三年六月二三日付意見書のとおりである。

昭和六三年八月二四日

右抗告人訴訟代理人弁護士 川村重春

福岡高等裁判所

宮崎支部 御中

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